共に食ってく?

主に映画を食べます

見た目は美しくも中身はドス黒い 『ジェーン・ドウの解剖』

f:id:tomoguizonbi:20191006172531j:image

監督

アンドレ・ウーヴレダ

製作

フレッド・バーカー

エリック・ガルシア

ベン・ピュー

ロリー・エイトキン

キャスト

エミール・ハーシュ

ブライアン・コックス

オフィリア・ラビボンド

 

あらすじ

バージニア州の田舎町で息子のオースティンとともに遺体安置所と火葬場を経営するベテラン検死官トミー。ある夜、保安官から入った緊急の検死依頼は、一家3人が惨殺された家屋の地下から裸で発見された身元不明女性、通称「ジェーン・ドウ」の検死だった。解剖を進めていく中で、遺体に隠されたある事実が判明し、閉ざされた遺体安置所にさまざまな怪奇現象が発生する。( 映画.com様より引用)

 

 

私だよ。太陽の日差しとそれにより熱されたコンクリートの熱気、鳴り止まない蝉の声、延々と立ち込める陽炎が心身共に少ない体力を奪っていく呪いの季節、夏。

そんな夏も遠くに歩いて行き、後ろから近づいてきた秋の季節だがまだまだ残暑が残る。

なので、今回は少し早めに涼しくなってもらうためにホラー作品を一つ紹介しようと思う。

 

実際ホラーは科学的に体を少しだけ涼しくする効力があると証明されているらしく、火照った身体には恐怖が持って来いである。

ということでひと時の納涼と恐怖をお届けするに相応しい一本ジェーン・ドウの解剖という作品を今回は紹介していこう。

 

そもそもジェーン・ドウとは何なのか。

ジェーン・ドウとは身元不明の女性の遺体のことを指す。因みに男性の場合はジョン・ドウと呼ぶらしい。

今作はその身元不明の女性の遺体、つまりジェーン・ドウから成る恐怖を描いた作品だ。

監督はまだ割と記憶にも新しい『トロール・ハンター』のアンドレ・ウーヴレダル監督

トロール・ハンター』も怪獣映画としても非常にワクワクする楽しい作品なのでこの場を借りてオススメしておこうと思う。

 

さて本題に戻ると個人的にはこの作品、結構怖く気に入っているホラー映画だ。

遺体安置所に運ばれてきた身元不明の遺体。外傷はなくあまりに美しい遺体に疑問を抱きつつメスが入った途端、突如として怪異が襲うという絶対に居たくない場所で絶対起こってほしくないことが起こるのだ。

やはりホラーは恐怖演出も大切だが、その恐怖をより一層際立たせる「場所」も重要になってくる。そういった点で「場所」に置いては文句なしなのでは無いだろうか。

遺体安置所を扱ったホラーは他にもあるが、本作はその場所の使い方が見事なのだ。

 

起こる怪異によって出口を塞ぎ、自然と遺体安置所一択という出口の無い密室へと持っていき、そのロケーションのみに抑えた逃げ場の無いホラーな現象が矢継ぎ早に従業員と視聴者を恐怖のどん底へと叩き落としていく。

 

もの言わぬ真っ白で傷一つない死因不明の美しい遺体が語り出す恐怖、そして謎、謎、謎。。電気が消えたり付いたりなど小さな違和感から始まり、遺体の解剖を進めれば進めるほどその底知れぬ闇は更に深さを増し、同時に解剖していく遺体も肺は真っ黒だわ舌が無いわ陣が描かれた意味不明な布が出てくるわ挙げ句の果ては燃やすことも出来ないと謎が深まるばかりに怯えつつ、メスを入れると顔を出す恐ろしい真相に見たくないけど、その目で思わず確かめたくなってしまう。

 

また遺体安置所という最悪の場所なので、遺体が保管された何処となく不気味で寒々しい雰囲気と血生臭さが漂うシチュエーションに自ずと寒気と緊張感が身体を蝕むのも、また怖さを一枚厚くしていると言っても良いだろう。

 

本作、何が怖いか、それは遺体安置所という普段日常的に踏み入れない。というか踏み入れたくない場所の道具やセットと遺体の検死や包み隠さない解剖シーンといったリアリティのある描写などガチ過ぎる検死現場を見せている。

それだけでもリアルでは立ち会えないリアルな検死や解剖に魅入ってしまうものがあり、何も起こらない前半でさえ寒気と緊張感を視聴者に与え、それを上手く利用した怪異が巧妙で非常に完成度の高い恐怖を生み出していると言える。

たとえば、もともと遺体安置所に保管されている足首に鈴の付いた遺体や顔面ゼロ距離からショットガンを食らった遺体などの存在が伏線となり、後半に活きてくる演出は、定番だがそのリアリティあるロケーションと解剖の様子も相まって芯から震えるものになっているのだ。

特に足首に鈴の付いた遺体。何が怖いって本来鳴るはずがないのに鳴るのだ。ありえない状況とありえない所から……。

そういった恐怖が最後まで持続するので、気を抜くことが許されない。

 

そして全ての元凶であるジェーン・ドウの隠された秘密。それに踏み入っていくミステリー要素もまた本作の楽しめる要因の一つだろう。

遺体は口を開かないのに、メスが入るたび語っていき、更にその語っていくものがどれも理解不能で全くもって謎すぎる点で気持ち悪さが増すばかり。人は理解できないものや存在に恐怖を覚えるものだ。理解できない謎、理解できない恐怖を本作は畳み掛け、投げかけてくる。

そしてパズルがハマっていくように徐々に明白にになっていくジェーン・ドウの正体とドス黒い真実。それが明かされたとき、理解したときに待ち受ける恐ろしさは尋常じゃない。

正体を知った時は思わずそれについて調べたくなることだろうと思う。是非その目で確かめて欲しい。

あと遺体のリアルさ。本作に登場する遺体は作り込まれた人形だが細部まで拘ったディテールはまるで本物の遺体を扱って解剖しているような感覚に陥っていく。まさに芸術的で匠の技。

更にもう一つ言うと本作、上映時間が90分以内というのが良い。ホラーはそれくらいの時間で纏められた方が見やすい。それも本作を推す一つの利点である。

 

ということで『ジェーン・ドウの解剖』ちょっとした納涼を感じたい方には凄くオススメである。

荒唐無稽に近いお話だが、Where(どこ)Who(だれ)When(いつ)What(何)Why(なぜ)の全ての5Wが揃ったミステリーとホラーが上手く絡み合い組み合わされた質の高い作品に仕上がっていることは間違いない。

解剖シーンも躊躇なく見せつけてくるので、グロいのが苦手な方には懐から軽くは出せないが、その怖さは一級品だろう。

 美しいものには棘がある。これに尽きる。

f:id:tomoguizonbi:20191006172540j:image